「敬語を使おうとすると言葉が出てこない」「メールを送る前に、失礼ではないか何度も確認してしまう」。敬語が苦手でも、原因は一つとは限りません。言葉の使い分けが曖昧な場合もあれば、正しく話そうとして焦っている場合もあります。
大切なのは、間違いを一度にゼロにしようとしないことです。まず苦手になる場面を確かめ、必要な表現から練習しましょう。この記事では、考えられる原因ごとに「自分で確認する方法」と「具体的な対処法」を紹介します。
原因1:尊敬語・謙譲語・丁寧語の使い分けが曖昧
考えられる原因
敬語には、相手の動作を高める尊敬語、自分側の動作を控えめに表す謙譲語、「です・ます」などの丁寧語があります。「見る」を誰がするのかによって、「ご覧になる」と「拝見する」を使い分ける必要があります。単語だけを覚えていても、動作の主語を意識していないと迷いやすくなります。
自分で確認できる方法
直近に書いたメールやチャットから、敬語を使った文を3文選んでください。それぞれに「動作をするのは相手か、自分側か」を書き添えます。例えば「資料を拝見します」は見る人が自分、「資料をご覧ください」は見る人が相手です。主語がすぐに分からない文が多ければ、まず使い分けの整理が役立ちます。
具体的な対処法
よく使う動詞を5個程度に絞り、「相手がする場合」「自分がする場合」を対で覚えましょう。最初から敬語を網羅する必要はありません。以下は、仕事でも使いやすい基本例です。
| 元の動詞 | 相手の動作 | 自分側の動作 |
|---|---|---|
| 見る | ご覧になる | 拝見する |
| 言う | おっしゃる | 申す・申し上げる |
| 行く | いらっしゃる | 伺う(相手先を訪ねる場合) |
| 食べる | 召し上がる | いただく |
表を眺めるだけでなく、「お客様が資料をご覧になります」「私が資料を拝見します」のように、一組につき2つの短文を作ると、主語と表現を結び付けやすくなります。
原因2:丁寧にしようとして言葉を言い換えすぎる
考えられる原因
「敬語は丁寧なほどよい」と考えると、一つの動作に敬語を重ねたり、必要以上に長い文にしたりしがちです。例えば「ご覧になられます」は、「ご覧になる」にさらに敬語の「られる」を重ねた形です。また、「拝見させていただきます」も、単に見ることを伝えるなら「拝見します」で十分な場面があります。
自分で確認できる方法
送信前のメールを1通選び、「させていただく」「お・ご〜になる」「れる・られる」に印を付けてみましょう。同じ動作に丁寧な表現が重なっていないか、短くしても意味が変わらないかを確認します。「させていただく」は、相手の許可を受けて行い、そのことで恩恵を受けるような場面かどうかも判断の手がかりです。
具体的な対処法
まずは「です・ます」で文を整え、必要な動詞だけを敬語にする順番で書きましょう。「資料を確認いたしました。明日、ご連絡します」でも、要件は丁寧に伝わります。書き終えたら一度声に出し、不自然に長い箇所を短くします。
ただし、「させていただく」を機械的に禁止する必要はありません。「会議室を使わせていただきます」のように、許可を得て使う場面では自然です。表現の長さではなく、行為と相手との関係に合っているかを基準にしましょう。
原因3:会話中に焦り、知っている敬語も出てこない
考えられる原因
メールなら書けるのに、電話や対面では敬語が出てこない場合があります。相手の話を聞きながら内容を判断し、返答を考え、言葉遣いまで整える必要があるためです。特に「絶対に間違えられない」と意識しすぎると、返答そのものが遅くなることがあります。
自分で確認できる方法
苦手だった場面を3回分振り返り、「電話・対面・メールのどれか」「最初の挨拶か、質問への返答か、締めの言葉か」をメモします。メールでは落ち着いて書けるなら、敬語の知識不足だけでなく、その場で組み立てる負担が関係しているかもしれません。
具体的な対処法
頻出場面の短い定型文を3〜5個用意し、声に出して練習します。例えば電話なら、「お電話ありがとうございます」「確認して、折り返しご連絡します」「恐れ入りますが、もう一度お名前を伺えますか」を準備します。相手の言葉が聞き取れなかったときも、無理に答えず聞き直して構いません。
練習は1日5分、2週間を目安に始められます。定型文を読むだけでなく、「相手から質問されたら答える」という形で声に出すのがポイントです。実際の会話では、急いで難しい言葉を探すより、一呼吸置いて短く答えましょう。これらの時間や期間は練習を始めるための目安であり、上達までの日数を保証するものではありません。
原因4:相手との関係や職場のルールが分からない
考えられる原因
同じ上司の話でも、社内の人に伝える場合と、社外の人に伝える場合では表現が変わります。社外の人に自社の上司の行動を伝えるときは、上司を高める表現を避けるのが基本です。例えば社外に「弊社の田中がおっしゃっています」と伝えるのではなく、「弊社の田中が申しております」とします。相手との関係が整理できていないと、単語を覚えていても迷いが残ります。
自分で確認できる方法
迷った文について、「話している相手は社内か社外か」「動作をする人は相手側か自分側か」の2点を確認してください。社外向けの文面だけで迷うなら、敬語全般よりも、社内と社外での言い方が課題かもしれません。また、職場で定められたメールの書式や呼び方があるかも確認しましょう。
具体的な対処法
職場でよく使う文面を、社内向け・社外向け各3例ずつ控えておきます。過去のメールを参考にする際は、宛先や個人情報の取り扱いに注意し、判断に迷う表現は上司や担当者に確認してください。「了解しました」と「承知しました」のように複数の言い方がある場合も、一律に正誤を決めつけず、相手との関係や職場の慣例に合わせると実用的です。
敬語が苦手なときの練習の進め方と、相談する目安
まずは苦手な場面を一つ選び、必要な表現を3〜5個に絞ります。次に、文の主語を確認してから短文を作り、声に出して練習しましょう。2週間ほど続けたら、最初に迷った場面で言えるようになったかを振り返ります。一度にすべて直すより、「電話の聞き直し」「社外メールの締め」など、用途を絞るほうが変化を確かめやすくなります。
自分だけで判断しにくい場合は、無理に抱え込む必要はありません。次のようなときは、目的に合った相談先を選びましょう。
- 社内独自の言い回しや社外対応で迷う:上司、教育担当者、人事担当者に確認する
- 敬語の使い分けを体系的に学びたい:研修担当者やビジネスマナー講座に相談する
- 敬語に限らず、言葉が極端に出にくい状態が続く、または会話への不安が日常生活に強く影響する:医療機関や相談窓口に相談する
敬語が苦手なのは、努力不足とは限りません。「何を知らないのか」「どの場面で焦るのか」を分けて考えれば、取り組むことが明確になります。敬語の身につけ方についてさらに詳しく知りたい方は、敬語の身につけ方ガイドはこちらをご覧ください。

