時候の挨拶とは、手紙やメールの冒頭に添える、季節や気候を表す挨拶の言葉です。読み方は「じこうのあいさつ」で、「陽春の候」「暑い日が続いておりますが」などが代表例です。
目的は、単に季節を知らせることではありません。いきなり用件に入らず、相手への気遣いを伝え、文章を丁寧に始める役割があります。
- 改まった手紙では、頭語の「拝啓」などに続けて書きます。
- 取引先には端正な表現、親しい相手には自然な話し言葉に近い表現が向いています。
- 日常の業務メールや急ぎの連絡では、省略しても差し支えありません。
まずは「今の季節に合う一文を、相手との関係に合わせて選ぶ」と考えると、難しくありません。
時候の挨拶とは?意味と役割をわかりやすく解説
「時候」は、その時期の季節や気候を意味する
「時候」とは、季節や、その季節ならではの暑さ・寒さなどを指す言葉です。春の暖かさ、夏の暑さ、秋の深まり、冬の冷え込みといった身近な変化を、文章の入口に取り入れたものが時候の挨拶です。
たとえば、春の手紙なら「春らしい暖かな日が続いております」、冬なら「寒さが一段と厳しくなってまいりました」と書けます。必ずしも難しい熟語を使う必要はありません。
相手を気遣い、本題へ自然につなげる
時候の挨拶には、文章の調子を整え、相手との距離をやわらげる働きがあります。その後に「いかがお過ごしでしょうか」「貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます」などを続けると、季節の話題から相手の様子を気遣う流れになります。
厳密には、季節を表す部分が「時候の挨拶」、相手の健康や繁栄を喜ぶ部分が「安否・繁栄の挨拶」です。ただし、実用上は両方をまとめて時候の挨拶として紹介する場合もあります。
つまり、「秋冷の候」が季節の言葉で、「皆様にはお健やかにお過ごしのことと存じます」が相手への気遣いです。この2つを分けて理解すると、例文を組み替えやすくなります。
時候の挨拶は「漢語調」と「口語調」の2種類
漢語調は、改まった手紙やビジネス文書向き
漢語調は、「新春の候」「盛夏の候」のように、季節を示す熟語に「の候」などを添える形式です。「候」はここでは「こう」と読み、「〜の時季となりましたが」という意味合いを表します。
会社からの案内状、式典の招待状、改まったお礼状など、格式を整えたい場面に向いています。「の候」の代わりに「のみぎり」「の折」を使う表現もありますが、初めてなら「の候」を基本にすると扱いやすいでしょう。
口語調は、自然な気遣いや親しみを伝えやすい
口語調は、「桜の花が咲く季節となりました」「朝夕は冷え込むようになりました」など、普段の言葉に近い文章です。家族や知人への手紙はもちろん、関係の深い取引先へのお礼にも使えます。
口語調だから失礼、漢語調だから必ず丁寧、というわけではありません。相手との関係や文書の目的に合っていることが大切です。違いを簡単に整理すると、次のようになります。
| 種類 | 例 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 漢語調 | 陽春の候、貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。 | 改まった案内状・会社宛ての文書 |
| 口語調 | 春の暖かさを感じる頃となりました。お元気でお過ごしでしょうか。 | 個人宛ての手紙・やわらかい印象のお礼状 |
季節に合う時候の挨拶の選び方と12か月の表現例
月だけでなく、送る時期と相手の地域も確認する
時候の挨拶は、基本的に手紙を出す時期に合わせて選びます。月末に投函する場合などは、相手に届く頃の季節も意識しましょう。
また、同じ4月でも、地域によって桜の開花や気温は異なります。「桜が満開となりました」と書くなら、その描写に無理がないか確認が必要です。送り手の土地の様子を伝える場合は、「こちらでは桜が見頃を迎えました」とすると明確になります。
選ぶ手順は、①送る日、②相手の地域、③相手との関係、の3点を確認することです。迷ったら、細かな自然現象を断定しない表現を選びます。
1月から12月までの代表的な表現
次の表現は、各月に使われる代表例です。月内ならいつでも使えるという意味ではなく、実際の寒暖や暦に合わせて調整してください。
- 1月:新春の候/新しい年を迎え、皆様いかがお過ごしでしょうか。「新春」は年始の挨拶に向きます。
- 2月:余寒の候/立春を過ぎても、まだ寒い日が続いております。「余寒」は立春以降に使います。
- 3月:早春の候/少しずつ春の気配を感じる頃となりました。
- 4月:陽春の候/春の暖かな日差しが心地よい季節となりました。
- 5月:新緑の候/若葉の緑が鮮やかな季節となりました。
- 6月:梅雨の候/雨の日が続いておりますが、お変わりありませんか。梅雨のない地域などには別の表現を選びます。
- 7月:盛夏の候/厳しい暑さが続いております。「盛夏」は夏本番の時期に合う表現です。
- 8月:残暑の候/立秋を過ぎても、なお暑さが続いております。「残暑」は立秋以降に使います。
- 9月:初秋の候/暦の上では秋となりましたが、まだ暑い日が続いております。
- 10月:秋冷の候/朝夕には秋の冷たさを感じるようになりました。
- 11月:晩秋の候/秋も深まり、朝夕の冷え込みが増してまいりました。
- 12月:師走の候/年の瀬が近づき、何かと慌ただしい頃となりました。
立春・立秋など、暦を基準にする言葉に注意
季節の言葉には、体感温度より暦を優先するものがあります。目安として、立春は2月4日頃、立夏は5月5日頃、立秋は8月7日頃、立冬は11月7日頃です。日付は年によって変わるため、使用する年の暦を確認してください。
たとえば「残暑」は、涼しくなってからではなく、立秋を過ぎても残る暑さを表します。「暦の上では秋ですが、厳しい暑さが続いております」と書けば、暦と実際の気候の違いを自然に伝えられます。
時候の挨拶を書く位置と、手紙の基本構成
「頭語→時候の挨拶→相手への挨拶→本題」の順番
一般的な改まった手紙は、次の順番で組み立てます。時候の挨拶は本文の終わりではなく、冒頭の「前文」に入ります。
- 1.頭語:「拝啓」など、手紙の始まりを示す言葉
- 2.時候の挨拶:「新緑の候」など、季節を表す言葉
- 3.相手への挨拶:健康や繁栄を喜ぶ言葉、日頃のお礼
- 4.本題:「さて」「このたびは」などから用件を書く
- 5.結びの挨拶:健康への気遣いや、今後のお願い
- 6.結語:「敬具」など、手紙を締める言葉
頭語と結語は組み合わせて使い、「拝啓」には「敬具」、「謹啓」には「謹言」などを対応させます。通常の手紙では、まず「拝啓・敬具」を覚えると便利です。
冒頭は1〜3文程度を目安にまとめる
時候の挨拶そのものは、短い語句や1文で十分です。相手への挨拶や日頃のお礼を含めても、実用的な目安として1〜3文程度にまとめると、本題が埋もれにくくなります。文字数や文数に厳密な決まりがあるわけではありません。
また、結びに書く「寒さ厳しき折、どうぞご自愛ください」は、季節を踏まえた締めくくりの言葉です。冒頭と結びの両方で季節に触れても構いませんが、同じ表現の繰り返しは避けると読みやすくなります。
そのまま応用できる、相手・場面別の例文
取引先への改まった案内状
拝啓 新緑の候、貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、このたび弊社では、新商品の説明会を開催する運びとなりました。詳細は同封の案内をご覧いただけますと幸いです。
ご多用のところ恐縮ですが、ぜひご参加くださいますようお願い申し上げます。
敬具
「貴社」は会社宛ての表現です。個人宛てなら「○○様にはますますご健勝のこととお慶び申し上げます」などに変更します。「ご健勝」は健康を喜ぶ言葉なので、病気療養中とわかっている相手には使わないようにしましょう。
お世話になった方への、やわらかいお礼状
拝啓 朝夕は涼しくなり、秋の気配を感じる頃となりました。お変わりなくお過ごしでしょうか。
このたびは温かいお心遣いをいただき、誠にありがとうございました。心より御礼申し上げます。
季節の変わり目ですので、どうぞご自愛ください。
敬具
このように、口語調でも「です・ます」を基本にすれば、丁寧な手紙になります。親しい相手には、頭語・結語を省いた書き方もできます。
通常のビジネスメールでは、用件を優先する
日常の業務メールでは、「いつもお世話になっております。○○株式会社の△△です」に続けて本題を書く形が一般的です。これは日頃の関係への挨拶であり、時候の挨拶ではありません。
久しぶりの連絡や季節のお礼なら、「暑い日が続いておりますが、お変わりありませんか」と1文添えると自然です。一方、日程調整や資料送付のたびに入れる必要はありません。メールでは通常、「拝啓・敬具」も省きます。
よくある疑問と、失礼にならないための注意点
時候の挨拶は必ず入れなければいけない?
すべての文書に必要なわけではありません。改まった案内状やお礼状では入れるのが基本ですが、急ぎの連絡、短いメッセージ、日常の業務メールでは省略できます。
お悔やみ状や災害のお見舞いなどは、一般に時候の挨拶を省き、相手をいたわる言葉から始めます。謝罪の連絡も、緊急性が高い場合は儀礼的な挨拶より謝罪と事実説明を優先しましょう。また、「前略」は前文を省く頭語なので、通常は時候の挨拶を続けず、「草々」などで結びます。
季節に関係なく使える表現はある?
「時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます」は、季節を限定せずに使える定型表現です。「時下」は「このところ、現在」という意味で、具体的な季節の描写を避けたいビジネス文書に便利です。
ただし、相手の状況にそぐわない祝いの言葉を機械的に使うのは避けてください。大切なのは、形式を埋めることより、相手が読んだときに違和感のない文章にすることです。
送る前には、「時期に合うか」「相手の状況に合うか」「本題まで長すぎないか」の3点を確認しましょう。時候の挨拶の基本についてさらに詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
つまり、時候の挨拶とは「季節の言葉を借りて、相手への気遣いを伝える書き出し」です。難しい言葉にこだわらず、今の季節と相手に合う一文を選べば、丁寧で自然な文章になります。

