敬語は日本だけ?韓国語や英語など海外の敬語表現と比較

結論:敬語があるのは日本だけではない

「敬語は日本だけにある言葉遣いなの?」という疑問への答えは、いいえです。韓国語には相手や話題の人物への敬意を言葉の形で示す仕組みがあり、英語や中国語にも、相手との関係に合わせて丁寧さを表す方法があります。

ただし、どの言語も日本語と同じ仕組みを持つわけではありません。日本語の特徴は、話す相手に丁寧にするだけでなく、話題にしている人を高めるか、自分側を低めるかによって、言葉を細かく選び分ける点です。

まずは「敬語がある・ない」という二択ではなく、各言語で誰への敬意を、何を使って表すのかを見ると、違いが理解しやすくなります。

世界にもある敬意の表し方:英語・韓国語・中国語の例

日本語でいう「敬語」を、ほかの言語にそのまま当てはめることはできません。それでも、相手との距離や立場を言葉に反映させる例は世界各地にあります。

言語 丁寧さや敬意を表す例 日本語との違い
日本語 「言う」「おっしゃる」「申す」を使い分ける 相手を高める形と、自分側を低める形がある
韓国語 語尾や動詞の形を変え、相手や話題の人物への敬意を示す 日本語とは語尾の使い方や選択の基準が異なる
英語 Could you …? のような依頼や、Mr.などの敬称を使う 日本語の尊敬語・謙譲語と同じ形の体系ではない
中国語 「您」などの丁寧な呼び方や、肩書を使う 丁寧さの示し方が日本語の動詞の使い分けとは異なる

韓国語:相手や話題の人物に合わせて形を変える

韓国語には、聞き手への丁寧さを示す語尾や、話題になっている人物を高める表現があります。たとえば、会話の相手との関係に応じて文末を選び、年長者などの行動を述べるときには動詞の形にも敬意を表せます。

このため、「日本語のように言葉の形を変える敬語は、日本だけ」という説明は正確ではありません。一方で、日本語の表現を韓国語の特定の形に一対一で置き換えられるわけでもありません。

英語・中国語:日本語と形は違っても丁寧さを表せる

英語では、依頼するときの「Open the door.」と「Could you open the door, please?」では、受け取られ方が変わります。肩書や敬称を使う場面もあります。英語に日本語と同じ尊敬語・謙譲語の体系がないことと、英語に丁寧な表現がないことは別です。

中国語でも、一般的な「你」に対して丁寧な「您」を使ったり、名前に役職を添えて呼んだりできます。また、フランス語の「tu/vous」やドイツ語の「du/Sie」のように、相手との関係によって二人称を選ぶ言語もあります。丁寧さの表現は世界に広くありますが、その道具は言語ごとに異なるのです。

日本語の敬語は何が特徴?基本の5種類を具体例で確認

日本語の敬語を理解する近道は、「誰の行動について話すか」と「誰に向かって話すか」を分けて考えることです。文化庁の「敬語の指針」では、敬語を尊敬語・謙譲語I・謙譲語II(丁重語)・丁寧語・美化語の5種類に整理しています。日常的には「尊敬語・謙譲語・丁寧語」の3種類で説明されることもありますが、より細かく見ると5種類です。

相手を高める尊敬語と、自分側を低める謙譲語

尊敬語は、話題になっている人の動作などを高める表現です。たとえば「先生が言う」を「先生がおっしゃる」と言い換えます。「おっしゃる」は、行動する先生を高めています。

謙譲語Iは、自分側の行動を低め、その行動が向かう相手を立てる表現です。「私が先生のところへ行く」を「私が先生のところへ伺う」とするのが例です。同じ「行く」でも、先生が行くなら「いらっしゃる」、自分が先生のところへ行くなら「伺う」と、行動する人によって選ぶ言葉が変わります。

謙譲語II(丁重語)は、自分側の行動を、聞き手に対して丁重に述べる表現です。たとえば「明日、東京へ行きます」を「明日、東京へ参ります」と言えます。「伺う」と「参る」はどちらも自分側の「行く」に使えますが、敬意の向け方が同じではありません。

聞き手に丁寧に話す丁寧語と、美化語

「です・ます」を使って聞き手に丁寧に伝えるのが丁寧語です。「先生が来た」を「先生が来ました」とすれば丁寧語になり、「先生がいらっしゃいました」とすれば尊敬語と丁寧語を組み合わせた形になります。

美化語は、「料理」を「お料理」とするように、物事を上品に表す言い方です。「お」が付けば必ず相手を高めている、というわけではありません。このように日本語では、一つの文の中でも敬意や丁寧さの働きを重ねられます。

日本語で迷いやすい「内と外」:上司のことを取引先にどう話す?

日本語の敬語で特に迷いやすいのが、社内の人は自分より上の立場でも、社外に対しては「自分側の人」として扱う場面です。相手が誰かによって、同じ上司の発言でも言い方が変わります。

  • 社内で上司の発言を話す:「田中部長がおっしゃっていました」
  • 取引先に上司の発言を伝える:「弊社の田中が申しておりました」

前者は、社内で上司を高める言い方です。後者は、取引先に向かって自分側の人物の発言を述べるため、謙譲語を使います。取引先に「弊社の田中部長がおっしゃっていました」と言うと、自社の人を高める形になるため、通常のビジネス場面では避けるのが適切です。

もっとも、敬語は「上司には常に尊敬語」という一つの規則だけで決まるものではありません。誰に向かって話し、誰を自分側として扱うかも関わります。この内と外の切り替えが、「日本語の敬語は難しい」と感じる大きな理由の一つです。ただし、内と外を意識した表現が日本にしかない、と断定する必要はありません。

なぜ「敬語は日本だけ」と思われる?歴史と誤解を整理

日本語の敬語には古くからの歴史があり、社会の変化とともに使われる場面も変わってきました。古典作品にも人物の立場を反映した表現が見られますが、昔の言い方と現在のビジネス敬語が、そのまま同じ形で続いているわけではありません。

現代では、年齢や役職だけでなく、顧客との関係、公の場か私的な会話か、相手との親しさなども言葉選びに影響します。たとえば同じ相手でも、仕事のメールでは「ご確認ください」、親しい間柄の会話では「見てね」と使い分けるでしょう。敬語は身分の上下だけを示す道具ではなく、場面に合った距離感を伝える手段でもあります。

「敬語は日本だけ」という印象が生まれるのは、日本語を学ぶ際に尊敬語・謙譲語・丁寧語を明確に分けて学び、職場でもその使い分けを強く意識するためかもしれません。しかし、ほかの言語にも敬意を示す方法はあります。正確には、日本語の敬語の組み立て方が、日本語ならではなのです。

敬語の歴史や言葉にまつわる話題をさらに知りたい方は、敬語の由来と雑学についてのまとめ記事もご覧ください。

まとめ:日本だけなのは「敬意」ではなく、敬語の仕組み

敬意や丁寧さを言葉で示すのは、日本だけではありません。韓国語は語尾や動詞の形、英語は依頼の言い回し、中国語は呼び方や敬称など、それぞれの方法を持っています。

日本語では、話題の人物を高める尊敬語、自分側を低める謙譲語、聞き手に向けた丁寧語などを、相手や場面に合わせて選びます。迷ったときは、「誰がする行動か」「誰に向かって話すか」「その人は内と外のどちらか」の3点を確認すると整理しやすくなります。

つまり、敬語は日本だけではありません。日本語ならではなのは、敬意を表すための細かな使い分けです。