敬語はなぜ難しい?つまずきやすいポイントと理由

結論:敬語が難しいのは「誰を立てるか」が場面で変わるから

敬語が難しい最大の理由は、単語を丁寧な形に直すだけでは正しく使えないことです。話している相手、話題に出てくる人、自分との関係を見て、誰の行動を高め、誰の行動を控えめに表すかを判断しなければなりません。

例えば「部長が来る」を取引先に伝える場面では、自社の部長は自分と同じ側の人です。普段は「部長がいらっしゃいます」と言う相手でも、社外に対しては「弊社の部長が参ります」と表現できます。同じ人物でも、話す場面によって言い方が変わるのです。

ただし、最初からすべての敬語を暗記する必要はありません。まずは「誰の行動か」「誰に向けて話すか」の2点を確認するだけでも、使い分けの見通しがよくなります。敬語の身につけ方についてさらに詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

敬語が難しいと感じる5つの理由

1.敬語には役割の異なる種類がある

学校などでよく学ぶ基本は、尊敬語・謙譲語・丁寧語の3つです。「行く」なら、相手の行動を高める「いらっしゃる」、自分の行動を控えめに表す「伺う」、文を丁寧にする「行きます」のように、目的によって言葉が変わります。

種類 何を表すか 「行く」を使った例
尊敬語 相手や目上の人の行動を高める 先生がいらっしゃる
謙譲語 自分側の行動を控えめに表す 私が先生の所へ伺う
丁寧語 聞き手に向けて文を丁寧にする 私が行きます

さらに、文化審議会の「敬語の指針」(2007年)では、謙譲語を2種類に分け、美化語を加えた5種類に整理しています。最初は3つの基本を押さえ、慣れてから細かな違いを学ぶと混乱しにくいでしょう。

2.「話し相手」と「話題の人物」が同じとは限らない

敬語を考えるとき、会話には少なくとも2つの視点があります。目の前で聞いている人への丁寧さと、話題に出てくる人の行動をどう表すかです。

例えば、同僚に「社長はもう来ましたか」と聞く場合も、取引先に「社長はもう来ましたか」と聞く場合も、文末の「ましたか」は丁寧です。しかし、社長の行動を高めるかどうかは、その人と聞き手との関係や会話の場面で考える必要があります。「です・ます」を付ければ敬語は完成とは言えない理由です。

3.社内では目上の人でも、社外では「自分側」になる

上司には尊敬語を使うと覚えていても、取引先に上司のことを話す場面では迷いやすくなります。社外の人に対しては、上司も自社の一員、つまり「自分側」として扱うのが基本です。

  • 上司本人に話す:「部長は何時にいらっしゃいますか」
  • 取引先に自社の部長の予定を伝える:「弊社の部長は15時に参ります」

ここで判断する基準は、役職の高さだけではありません。「今、誰に対して、誰のことを話しているか」です。社内と社外の境目が変わるたびに言葉を選び直すため、敬語は難しく感じられます。

4.日常語と形が大きく違う言葉がある

「読む→お読みになる」のように元の形から推測しやすい敬語がある一方、「言う→おっしゃる」「見る→ご覧になる」「食べる→召し上がる」のように、形を覚える必要がある言葉もあります。さらに「行く」「来る」「いる」には、尊敬語として共通の「いらっしゃる」が使われます。

一語ずつ丸暗記しようとすると負担が大きいため、まずは仕事や学校でよく使う「行く・来る・言う・見る・する」の5語程度から確認するのがおすすめです。

5.正しさだけでなく、場面に合う自然さも求められる

敬語には、文法上の判断に加えて、相手との距離感や伝わりやすさも関わります。例えば「確認してください」は状況によっては率直すぎる印象になりますが、「ご確認いただけますか」なら依頼だと伝わり、表現もやわらかくなります。

反対に、丁寧にしようとして長い表現を重ねると、要件が見えにくくなることがあります。敬語の目的は難しい言葉を増やすことではなく、相手への配慮を伝えながら、内容を正確に届けることです。

具体例でわかる、迷いやすい敬語の使い分け

相手の行動には尊敬語、自分の行動には謙譲語

最初に確認したいのは、動作の主語です。「誰がその行動をするのか」を先に決めると、尊敬語と謙譲語を取り違えにくくなります。

  • お客様が言う:「お客様がおっしゃいました」
  • 自分が言う:「私が申し上げました」
  • お客様が見る:「お客様がご覧になります」
  • 自分が見る:「私が拝見します」

「お客様が申されました」は、自分側の「申す」と相手を高める「れる」を組み合わせており、不自然です。主語が相手なら「おっしゃいました」と言い換えます。

「伺う」と「参る」は、行き先との関係にも注目する

自分が「行く」ときに使う敬語には「伺う」「参る」などがあります。「伺う」は、訪ねる先の人や場所を立てる言い方です。一方、「参る」は自分側の行動を丁重に述べる言い方で、聞き手に丁寧に伝えたいときにも使えます。

  • 取引先を訪問する:「明日、御社に伺います」
  • 自分の移動予定を丁寧に述べる:「明日、会場に参ります」

どちらも単純に「丁寧な行く」として覚えるより、訪問先を立てるのか、自分の移動を丁重に伝えるのかで考えると選びやすくなります。

丁寧にしすぎて言葉を重ねない

「おっしゃられる」は、すでに尊敬語である「おっしゃる」に、尊敬の「られる」を重ねた表現です。相手の発言を表すなら「おっしゃる」で十分です。同様に「ご覧になられる」ではなく「ご覧になる」とします。

依頼でも、長くすれば必ず丁寧になるわけではありません。「資料をご確認いただけますでしょうか」と言いたくなったら、まずは「資料をご確認いただけますか」で意図が伝わるか考えてみましょう。二重敬語の誤りと、単に長い表現とは別の問題ですが、どちらも一度短くして確認すると読みやすくなります。

敬語を無理なく身につけるための3つの練習法

1.使う場面を「社内・社外・メール」に分ける

敬語を辞書の順番で覚えるより、自分が使う場面に分けて整理すると実用的です。例えば「上司への報告」「取引先への連絡」「メールでの依頼」の3場面を挙げ、それぞれで頻出する表現を2〜3個ずつ書き出します。

「承知しました」「弊社の担当者が伺います」「ご確認いただけますか」のように、一文のまま覚えるのがポイントです。実際に使う場面と結びつけることで、単語だけを覚えるより言葉を選びやすくなります。

2.「主語→相手→言い方」の順に確認する

迷ったら、次の3段階で考えてみてください。

  • 主語:行動するのは相手か、自分側か
  • 相手:その内容を誰に向けて伝えるか
  • 言い方:尊敬語・謙譲語・丁寧語のどれが必要か

例えば「取引先に、自社の担当者が訪問すると伝える」なら、主語は自分側の担当者、聞き手は取引先です。「担当者が伺います」と言えば、担当者の行動を控えめに表しつつ、文末も丁寧にできます。

3.1日5分、実際に使う文を言い換える

練習は長時間まとめて行うより、使う可能性の高い文を少しずつ見直す方法から始められます。例えば1日5分を2週間の練習期間の目安として、メールの下書きや会話でよく使う文を毎日1文だけ言い換えてみましょう。これは効果を保証する数字ではなく、取り組みやすい練習量の一例です。

  • 「先生が言いました」→「先生がおっしゃいました」
  • 「明日、御社に行きます」→「明日、御社に伺います」
  • 「資料を見てください」→「資料をご確認ください」

言い換えた後は、主語が変わっていないか、相手との関係に合っているかを確認します。間違えた表現だけをメモしておけば、復習する項目も絞れます。

まとめ:敬語は暗記より「立てる相手」の確認が大切

敬語が難しいのは、尊敬語・謙譲語・丁寧語の違いに加え、社内外の関係や話題の人物に合わせて表現を変える必要があるためです。まずは「誰が行動するか」「誰に話すか」を確認し、よく使う表現から少しずつ覚えましょう。

つまり、敬語は難しい言葉の暗記ではなく、その場で誰を立てるかを考える言葉遣いです。