敬語の由来と歴史|いつから使われているのかを解説

敬語の由来をひと言でいうと、相手を高めたり、自分を控えめに表したりして、人と人との関係を言葉で示してきた日本語の歴史にあります。古代の敬語は、天皇や貴族などの地位を示す働きが目立ちました。その後、宮廷だけでなく武家や町人の社会でも使われ、現在は地位の差に加えて、相手への配慮や場面に合った丁寧さを表す言葉になっています。

ただし、敬語には「何年に、誰かが作った」という単一の起源はありません。長い時間をかけて複数の表現が生まれ、使い分けられてきました。この記事では、その流れと、今も使う敬語の意味を順に見ていきます。

敬語の由来は?まず押さえたい3つの要点

敬語の歴史を理解するには、次の3点を押さえると分かりやすくなります。

  • 出発点:相手の身分や、自分と相手との関係を言葉に反映する表現が、古代から使われていた。
  • 広がり:宮廷を中心とする言葉遣いが、時代とともに武家や町人など、より幅広い場面でも使われるようになった。
  • 現在の役割:上下関係だけでなく、初対面の人との距離感や、仕事上の礼儀を示すためにも使われている。

つまり、敬語は単なる「偉い人に使う言葉」ではありません。相手との関係や、その場にふさわしい態度を表すための言葉の仕組みです。敬語の由来と雑学をあわせて知りたい方は、敬語の由来と雑学についてさらに詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。

古代の敬語はどのように使われていた?

奈良時代には敬意を示す表現が見られる

敬語的な表現は、奈良時代の文献にも見られます。奈良時代はおおむね8世紀に当たり、『万葉集』などに残る言葉から、当時すでに人や行為を敬って表す言い方があったことが分かります。現代の「いらっしゃる」「伺う」と同じ語を、そのまま全員が使っていたという意味ではありません。敬意を示すために、動詞の形や言葉の選び方を変える仕組みがあった、ということです。

当時の社会では、身分や立場の違いが人間関係に強く関わっていました。誰の行為を述べるのかによって言い方を変えることには、その人物をどのように位置付けるかを示す意味がありました。たとえば、現代でも「社長が来た」と「社長がいらっしゃった」では、出来事は同じでも、話し手の示す敬意が違います。この違いの源流を古い日本語に見ることができます。

平安時代の宮廷文学では、人物関係を読み解く手掛かりに

平安時代、特に貴族社会を描く文学では、敬語は会話だけでなく、地の文でも重要な役割を果たしました。11世紀初めごろに成立した『源氏物語』のような作品では、誰の動作に敬語が使われているかが、場面の中心人物や人物同士の関係を読み解く手掛かりになります。

ここで注意したいのは、古代・中世の敬語を、現代のビジネス敬語にそのまま置き換えないことです。昔は社会的な地位を表す働きがより目立ちました。一方、現在の敬語には、相手と円滑に話すための丁寧さという役割もあります。敬語の形だけでなく、使う目的も時代とともに変わってきたのです。

敬語は宮廷から、武家・町人・現代へどう広がった?

使う人と場面が少しずつ広がる

敬語は宮廷だけの言葉として固定されていたわけではありません。武家社会では、主君や家臣などの関係に応じた言葉遣いが使われました。江戸時代には、商いの場や町人同士のやり取りでも、相手を立てたり、丁寧に応対したりする表現が重要になります。現代の店頭で聞く言葉をすべて江戸時代にさかのぼらせることはできませんが、宮廷以外の暮らしにも、相手に応じて言葉を選ぶ場が広がったと捉えるとよいでしょう。

明治以降は、学校教育、新聞、仕事などを通じて、異なる地域や立場の人同士が共通の言葉遣いを意識する機会が増えました。現在の「です・ます」を使う丁寧な話し方も、日常のさまざまな場面で基本的な形として定着しています。ただし、個々の敬語表現は成立した時期や変化の経緯が異なります。「敬語は平安時代に完成した」「ビジネス敬語は江戸時代に生まれた」と一つの時代にまとめるのは正確ではありません。

今は「上下」だけでなく「距離感」を調整する

たとえば、初対面の同年代の人に「明日、行く?」ではなく「明日、行きますか」と聞くことがあります。相手のほうが偉いからとは限りません。まだ親しくない相手との距離を保ち、失礼のないように話すためです。

一方、親しい友人には敬語を外すことで、近さを表せます。このように現代の敬語は、立場に加え、親しさや公的な場かどうかも考えて選ぶものです。歴史を通じて受け継がれてきたのは、「相手との関係を言葉で示す」という基本的な役割だといえます。

尊敬語・謙譲語・丁寧語の由来と現代の5分類

敬語の仕組みを説明するときは、長く使われてきた「尊敬語・謙譲語・丁寧語」の3分類が便利です。一方、文化庁の文化審議会が2007年に示した『敬語の指針』では、従来の謙譲語を2つに分け、美化語も加えた5分類で説明しています。昔から敬語が5種類しかなかったという意味ではなく、現代の用法をより細かく整理したものです。

種類 主な働き 例
尊敬語 相手や話題の人物の動作・状態を高める 先生がいらっしゃる
謙譲語Ⅰ 自分側の行為を控えめに述べ、その行為が向かう相手を立てる 先生に伺う
謙譲語Ⅱ(丁重語) 自分側の行為を、聞き手に対して丁重に述べる 私が東京へ参ります
丁寧語 文全体を丁寧な言い方にする 明日、行きます
美化語 物事を上品に表す お茶を飲む

違いを見分ける近道は、「誰の動作か」「誰を立てているか」を順に考えることです。「先生がいらっしゃる」は先生の動作を高めます。「私が先生に伺う」は自分の動作を低く表し、訪問先の先生を立てます。「お茶」の「お」は、特定の誰かの動作を高めているわけではありません。

また、謙譲語ⅠとⅡは、どちらも自分側について述べるため混同しやすい部分です。「先生に伺う」は行為が向かう先生への敬意が中心です。これに対して「東京へ参ります」は、行き先の東京を敬っているわけではなく、聞き手に対して丁重に述べています。

「お・ご」や身近な敬語の語源は?

「お名前」「ご住所」の「お・ご」は「御」に通じる

敬語の由来を身近に感じられるのが、言葉の前に付ける「お・ご」です。「お名前」「ご住所」に見られる「お・ご」は、敬意や丁寧さを添える「御」に通じます。「御」には「お」「ご」のほか、「御心」の「み」のような読み方もあり、古くからさまざまな形で用いられてきました。

一般的には、和語に「お」、漢語に「ご」を付ける傾向があります。たとえば「お手紙」の「手紙」は和語、「ご連絡」の「連絡」は漢語です。ただし、これは絶対的な規則ではありません。「お電話」「お料理」のように漢語に「お」を付ける例もあります。迷ったときは、漢字の種類だけで機械的に決めず、普段使われている言い方を確かめましょう。

同じ「お・ご」でも働きは異なる

「お・ご」が付けば、すべて尊敬語になるわけではありません。次の3例を比べると、役割の違いが分かります。

  • お名前を伺う:「お名前」は相手に関わるものを丁寧に表している。
  • 先生をお迎えする:「お迎えする」は、自分側の行為を控えめに表し、迎える相手を立てる。
  • お茶を飲む:「お茶」は物事を上品に表す美化語として使われる。

見た目が似ていても、敬語の働きは文全体で決まります。語源を知ったうえで「誰に敬意を向けているのか」を考えると、使い分けやすくなります。

敬語の歴史から分かる、現代の使い方のコツ

敬語は、人間関係を適切に表すために発達してきました。そのため、言葉を長くすれば丁寧になるとは限りません。現代の会話やメールでは、まず次の3点を確認すると実用的です。

  • 相手の動作か:相手が来るなら「いらっしゃる」、相手が見るなら「ご覧になる」など、尊敬語を選ぶ。
  • 自分の動作か:自分が相手を訪ねるなら「伺う」など、必要に応じて謙譲語を選ぶ。
  • 誰に、どの場面で話すか:初対面や公的な場では「です・ます」を基本にし、関係に応じて調整する。

たとえば「社長が伺います」は、社長の動作に謙譲語を使っているため、社長を立てたい場面では不自然です。「社長がいらっしゃいます」なら、社長の動作を高められます。ただし、社外の人に自社の社長について話す場合などは、誰に向けて話すかによって表現が変わります。単語だけを暗記するより、話し手・聞き手・話題の人物の関係を見ることが大切です。

また、「させていただきます」を何にでも付ける必要はありません。相手の許可を受け、その行為によって恩恵を受ける場面では自然ですが、単に予定を伝えるなら「明日、説明します」で十分なこともあります。敬語の目的は、複雑な形を重ねることではなく、相手に伝わる適切な丁寧さを選ぶことです。

まとめ:敬語とは、古代から形を変えながら受け継がれてきた「相手との関係を言葉で表す仕組み」です。由来を知ると、決まり文句としてではなく、「誰を、どのように立てるか」を考えて使えるようになります。