「敬語がわからない」と感じたとき、すべての言い回しを暗記する必要はありません。まずは「誰の行動を話しているか」「相手は社内か社外か」「何を伝えたいか」の3点を確認すると、使う表現を絞れます。
この記事では、敬語で迷いやすい原因を4つに分け、各項目を「考えられる原因→自分で確認できる方法→具体的な対処法」の順に解説します。メールを書いている途中でも、会話の準備中でも、該当する項目から確認してください。
原因1:尊敬語と謙譲語の使い分けがわからない
考えられる原因:丁寧な言葉を相手にも自分にも使っている
尊敬語は、相手や話題に出てくる目上の人の行動を高める言葉です。謙譲語は、自分や自分側の行動を控えめに表す言葉です。たとえば「見る」なら、相手が見る場合は「ご覧になる」、自分が見る場合は「拝見する」を使います。
難しいのは、文中に上司と自分が同時に登場するときです。「部長が資料を拝見しました」は、部長の行動に自分側の表現を使っているため、通常は「部長が資料をご覧になりました」とします。
自分で確認できる方法:動作の主語に印を付ける
迷った文を1文ずつ区切り、「誰が行く・言う・見るのか」を確認しましょう。主語が取引先や目上の人なら尊敬語、自分や自分側なら謙譲語が基本です。まずは次の5語を押さえると、業務でよく使う表現を確認しやすくなります。
| 基本の動詞 | 相手の動作:尊敬語 | 自分の動作:謙譲語 |
|---|---|---|
| 行く | いらっしゃる | 伺う・参る |
| 言う | おっしゃる | 申し上げる・申す |
| 見る | ご覧になる | 拝見する |
| する | なさる | いたす |
| 食べる | 召し上がる | いただく |
表は基本的な対応です。「伺う」は相手のところへ行く場合などに使い、「参る」は自分が行くことを丁寧に述べる場合に使えます。場面によって自然な語を選びましょう。
具体的な対処法:まず主語を明記して書き直す
複雑な一文を無理に敬語へ変えるより、主語を入れた短い文にすると間違いを見つけやすくなります。「資料、拝見されましたか」ではなく、相手に尋ねるなら「資料はご覧になりましたか」。自分が確認した報告なら「資料を拝見しました」です。会話でも、言いかけた文が複雑になったら短く言い直して構いません。
原因2:丁寧にしようとして敬語を重ねすぎている
考えられる原因:敬語を増やすほど丁寧だと思っている
敬語は、形を重ねれば必ず丁寧になるわけではありません。たとえば「ご覧になる」にさらに「れる」を付けた「ご覧になられる」は、同じ動作を二重に敬語化した表現です。長い言い方ほど安心に感じても、読み手には要点が伝わりにくくなることがあります。
一方で、敬語らしい形が2つ続けばすべて誤り、というわけでもありません。自分の行動を表す「お伺いします」などを、字面だけで一律に避ける必要はありません。個々の語を数えるより、誰のどの動作を丁寧にしているかを確認することが大切です。
自分で確認できる方法:動詞の中心を1つ探す
送信前に文を声に出すか、動詞の部分だけを抜き出してみましょう。「ご覧になられましたか」なら、中心は「見る」です。「おっしゃられた」なら、中心は「言う」です。すでに「ご覧になる」「おっしゃる」という尊敬語になっていれば、さらに「れる・られる」を足す必要があるか見直せます。
具体的な対処法:短くても丁寧な定型表現に置き換える
「ご覧になられましたか」は「ご覧になりましたか」、「おっしゃられた内容」は「おっしゃった内容」とすると、自然で読みやすくなります。また、「変更させていただきます」を慣習的に繰り返しているなら、許可をいただいて行う行動なのか確認しましょう。単に自分側の対応を伝えるなら「変更いたします」で足ります。
メールを見直すときは、まず1文を長くしすぎないことも有効です。目安として、1文に依頼や報告をいくつも詰め込まず、用件が変わるところで文を分けます。敬語を増やす前に、相手が何をすればよいかが伝わるかを確認してください。
原因3:社内と社外で言い方が変わり、混乱している
考えられる原因:上司なら常に高めると思っている
敬語は相手との関係によって使い方が変わります。社内で上司に話すときは、上司への敬意を示します。一方、取引先に自社の上司について話すときは、上司も自分側の人です。取引先に「弊社の部長がいらっしゃいます」と伝えると、自分側の人を高める言い方になってしまいます。
自分で確認できる方法:聞き手と話題の人物を分ける
文を作る前に、次の2つを確認してください。「誰に話すか」と「誰について話すか」です。たとえば、社内の同僚に部長の予定を尋ねるなら「部長は何時にいらっしゃいますか」。取引先に部長の不在を伝えるなら「部長の田中は、ただいま席を外しております」とします。
電話やメールでは相手の顔が見えないため、頭の中で関係を整理しにくいことがあります。発信前や送信前に、「相手=取引先/話題の人=自社の部長」のように一行だけ書き出すと判断しやすくなります。
具体的な対処法:社外には自分側を高めず、事実を伝える
社外の人へ伝える際は、自社の人に尊敬語を使おうとせず、状況を簡潔に述べます。不在なら「田中は席を外しております」、確認するなら「担当の田中に確認いたします」と言えます。相手の行動については、「ご担当者様は何時にいらっしゃいますか」のように尊敬語を使います。
迷ったときは、難しい言い換えを探すより「誰が・何をする」を先に決めてください。特に電話では、敬語の正しさだけに集中して用件を落とさないことも重要です。折り返しが必要なら、名前・連絡先・希望時間など、対応に必要な情報も確認しましょう。
原因4:「できない」「知らない」など否定やお断りを伝えにくい
考えられる原因:否定を避けようとして返答が曖昧になる
依頼を受けられないとき、「できません」と言うだけでは事情が伝わらず、反対に「検討します」だけでは引き受けてもらえると期待される可能性があります。敬語がわからないという悩みには、言葉の形だけでなく、断る内容をどう明確に伝えるかという問題も含まれます。
自分で確認できる方法:結論・理由・次の対応を分ける
返信を書く前に、①対応できるか、②説明できる理由はあるか、③代案や確認予定はあるか、の3点を整理します。期限に間に合わないのか、そもそも対応できないのかでも、適切な返答は変わります。理由が未確認なら推測で説明せず、「確認のうえ、改めてご連絡します」と伝えましょう。
具体的な対処法:結論をぼかさず、配慮の言葉を添える
断るときは「恐れ入りますが」「あいにく」といった言葉を添えたうえで、結論を明確にします。たとえば「恐れ入りますが、その日程での対応はいたしかねます。翌週の火曜日以降でしたら調整可能です」と伝えれば、断りと代案の両方が分かります。代案がない場合は、無理に作る必要はありません。
問い合わせの答えを知らないときも、断りと混同しないことが大切です。「存じません」で終わらせるより、確認できる立場なら「現時点では把握しておりません。担当部署に確認いたします」と伝えるほうが次の対応が明確です。否定・お断りの敬語についてさらに詳しく知りたい方は、否定・お断りの敬語のまとめ記事もご覧ください。
自分で判断できないときは、送る前に誰へ相談する?
相談が必要な場面を見極める
言い回しだけの問題なら、主語・相手との関係・用件の3点を確認し、例文を短く直すことで対応できる場合が多いでしょう。ただし、契約条件、料金、納期、個人情報、苦情への回答に関わる文面は、敬語が自然でも内容を自己判断で確約しないことが重要です。取り消しにくい約束や謝罪の範囲に迷ったら、送信前に上司や担当部署へ確認してください。
相談するときは、文面と判断したい点をセットで伝える
「敬語がわかりません」とだけ相談するより、「取引先への納期変更メールです。この日付を確約してよいか、断り方は適切か確認してください」と伝えるほうが、相手も確認しやすくなります。社内の表現ルールがある場合は、一般的な例文より自社の規定や承認手順を優先しましょう。
敬語に迷ったら、最初から完璧な一文を作ろうとせず、主語を確認する→相手との関係を確認する→結論が伝わるか確認する、の順に見直してください。言葉を整えるだけでは解決できない内容上の判断は、担当者に相談してから伝えましょう。

