社外の人に上司のことを話すとき、「部長がおっしゃいました」でよいのか。自分の親を「お父さん」と呼んでよいのか。敬語と身内の関係は、相手が誰かによって判断が変わるため、迷いやすいものです。
結論から言うと、社外の人に自分側の人のことを話すときは、その人を尊敬語で持ち上げません。家族なら「父・母」、会社の人なら「弊社の田中」のように呼び、動作を伝える際は文脈に合わせて普通の形や謙譲語を使います。ただし、身内に対して常に敬語を使ってはいけない、という意味ではありません。
この記事では「誰に向かって、誰のことを話しているか」を軸に、家族と職場の例文を整理します。身内と自分側の敬語の全体像を確認したい方は、身内と自分側の敬語についてさらに詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
敬語で身内を扱う基本は「話し相手」と「話題の人」で決まる
「身内」は家族だけでなく、自分側の人も指す
敬語を考えるときの「身内」は、親族だけを意味しません。取引先やお客様に対しては、自社の上司・同僚・部下も「自分側」の人です。反対に、社内で上司本人に話しかける場面では、その上司は敬意を向ける相手になります。
判断するときは、次の2つの問いを順番に確認しましょう。
- ① 誰に話しているか:社外の人か、社内の人か。家族の外の人か。
- ② 誰の動作を述べているか:話し相手側の人か、自分側の人か。
たとえば「社内で部長に報告する」場合と「取引先に部長の予定を伝える」場合では、同じ部長でも敬語の選び方が変わります。人に「敬語を使う・使わない」という固定の印を付けるのではなく、その会話での立ち位置を見るのが近道です。
身内への尊敬語を避けても、話し方は丁寧にする
ここで区別したいのは、話題の人を高める尊敬語と、聞き手に対する丁寧な「です・ます」です。取引先に「弊社の田中が言いました」と伝えるとき、丁寧語の「ました」は使って問題ありません。一方、「弊社の田中がおっしゃいました」では、田中の動作を高める尊敬語「おっしゃる」を使っています。
文化庁の「敬語の指針」でも、敬語は尊敬語・謙譲語Ⅰ・謙譲語Ⅱ(丁重語)・丁寧語・美化語という5つの種類に整理されています。「身内には敬語を使わない」と丸暗記するより、「自分側の人を尊敬語で高めない。ただし、聞き手には丁寧に話す」と覚えるほうが正確です。
家族と上司を社外の人に話すときの言い換え例
家族の呼び方は「父・母・兄・姉」などを基本にする
仕事相手や改まった場で自分の家族に言及するなら、「お父さん」「お母さん」より「父」「母」を使うと自然です。兄弟姉妹も「兄」「姉」「弟」「妹」と呼びます。配偶者は、場面に応じて「夫・妻」などと表現できます。
| 相手に伝えたいこと | 身内についての自然な表現 |
|---|---|
| 自分の親から電話があった | 「父から連絡がありました」 |
| 自分の母が訪問する | 「母が明日伺います」 |
| 自社の上司が確認した | 「弊社の田中が確認いたしました」 |
| 自社の上司が席を外している | 「田中はただいま席を外しております」 |
自分の父について「父がいらっしゃいます」「父がおっしゃいました」と言うと、社外の聞き手に対して自分側の人を高める形になります。改まった説明では「父が参ります」「父が申しておりました」など、伝えたい内容と相手との関係に合う表現を選びましょう。日常的な会話なら「父が来ます」「父が言っていました」と丁寧に述べても十分です。
社外には上司も「弊社の人」として紹介する
取引先との会話では、自分の上司も会社という単位で見れば自分側です。社内では「部長がおっしゃいました」と言う人でも、取引先には次のように言い換えます。
- 「部長がおっしゃっていました」→「弊社の田中が申しておりました」
- 「部長がご覧になります」→「弊社の田中が拝見します」
- 「田中部長はお戻りになります」→「田中は戻る予定です」
社外で名前を示す際は、「弊社の田中」「弊社営業部長の田中」のように紹介すると、誰のことかが分かりやすくなります。役職を伝える必要がなければ、名前だけでも差し支えありません。役職を説明することと、尊敬語で動作を高めることは別です。
なお、謙譲語に言い換えれば必ず自然になるわけではありません。たとえば単に「田中が資料を見ました」で足りる場面で、無理に「拝見しました」を使う必要はありません。資料を提供してくれた取引先への敬意を表すなら「拝見しました」が合います。動作が誰に向かうかも合わせて確認しましょう。
電話・メールでそのまま使える短い例文
電話では、相手を待たせないためにも、まず誰が・いつ・何をするかを簡潔に伝えると効果的です。
- 担当者の不在:「申し訳ございません。田中はただいま席を外しております」
- 折り返しの連絡:「戻り次第、田中からご連絡いたします」
- 上司からの回答:「お問い合わせの件は、弊社の田中が確認し、明日中に回答いたします」
- 家族の事情による欠席:「家族の都合により、明日の会議を欠席いたします」
自分側が連絡する場合の「ご連絡いたします」は、連絡を受ける相手への配慮を示す表現として使えます。「ご」が付いているだけで、身内を持ち上げていると判断する必要はありません。
相手が変われば、同じ人への敬語も変わる
社内で上司本人に話すなら敬意を表してよい
「身内には尊敬語を使わない」という説明は、主に社外の人へ自社の人について話す場面の目安です。社内で上司本人に「こちらの資料をご覧ください」と依頼したり、同僚に上司の予定を「部長は午後にいらっしゃいます」と伝えたりすることまで、一律に禁じるものではありません。
つまり、上司という人そのものが「敬語を使えない身内」なのではありません。社外へ会社の人を紹介するときは自分側、社内では上下関係や場面に応じて敬意を示すと切り替えます。
相手の家族には敬意を向ける
自分の家族を「父・母」と呼ぶ一方で、相手の家族には「お父様・お母様」「ご家族」などを使います。たとえば取引先に「お父様はお元気でいらっしゃいますか」と尋ねる場合、相手側の家族を尊敬語で高めています。
ただし、親しい間柄なら「お父さん、お元気ですか」といった言い方が自然なこともあります。仕事上の会話か私的な会話か、関係の近さはどの程度かを見て選びましょう。また、家族同士の会話で親に敬語を使うかどうかは、各家庭の習慣や会話の目的によります。社外向けのルールを家庭内にそのまま当てはめる必要はありません。
他社の人を「同じ業界だから身内」と考えない
「自分側」は、単に知り合いかどうかでは決まりません。取引先の担当者や別会社の社長は、仕事上親しくても自社の身内ではありません。自社の人を紹介するときと同じ言い方にそろえず、相手との関係にふさわしい敬語を選びます。
迷ったときは「この会話で、私はどの立場を代表して話しているか」と考えると整理できます。取引先への電話なら自社を代表しているため、自社の役員や上司も自分側。一方、自社の上司への報告なら、上司は敬意を向ける相手です。
「敬語 身内」で間違えやすい表現と確認ポイント
「身内には敬語ゼロ」は誤解
社外の人に「田中が確認しました」と言うとき、丁寧語は使っています。避けたいのは、自社の田中を社外の人の前で「田中がご確認なさいました」と尊敬語で高めることです。「丁寧に話すこと」と「話題の人を持ち上げること」を混同しないようにしましょう。
名前に付ける「さん」と役職名は場面で選ぶ
社内で「田中さん」「田中部長」と呼ぶのは自然でも、社外に自社の担当者を紹介するときは「弊社の田中」が基本です。取引先に「田中さんからご連絡します」と言うより、「田中からご連絡いたします」のほうが、自分側と相手側の区別が明確になります。
ただし、役職名を一切使わないわけではありません。「弊社の営業部長・田中が担当いたします」のように、担当者の立場を知らせる目的なら役職を示せます。肩書きを付けたかどうかだけでなく、文全体で誰を高めているかを確認してください。
送信前は3点だけ見直す
電話の言い回しやメールの文面で迷ったら、次の3点を見直すと判断しやすくなります。
- ① 聞き手は誰か:社外の人なら、自社の人は原則として自分側。
- ② 主語は誰か:「おっしゃる」「いらっしゃる」などの尊敬語が、自分側の人に掛かっていないか。
- ③ 聞き手への丁寧さはあるか:尊敬語を外した結果、ぶっきらぼうな言い方になっていないか。
たとえば「部長がおっしゃっていました」を社外向けに直すなら、①聞き手は取引先、②主語は自社の部長、③丁寧さは保つ、と確認します。すると「弊社の田中が申しておりました」や、場面によっては「弊社の田中が話しておりました」という形にできます。言い換えを丸暗記するより、この順番で考えるほうが応用できます。
まとめ:身内の敬語は「誰に話すか」から考える
社外の人に自分の家族や自社の上司について話すときは、その人を尊敬語で高めず、「父」「弊社の田中」のように表現します。一方、聞き手への「です・ます」は保ち、相手側の人には関係に応じて敬意を示します。
つまり、身内かどうかを人に固定せず、「今、誰に向かって誰のことを話しているか」で敬語を選ぶのが基本です。

